VIPO(映像産業振興機構)がセレクトした世界最前線の映画に出会う14日間、「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」がヒューマントラストシネマ渋谷にていよいよ開催目前!(会期は12月12日(金)~25日(木)まで)
開催を記念したプレイベントとして、12月3日(水)に東京・新宿区にある東京日仏学院 エスパス・イマージュにて『ハッシュ!』(橋口亮輔監督/2001年)の特別無料上映&スペシャルトークが行われた。本作は、付き合って間もない同性カップルの直也と勝裕、そして人口授精で子供を出産したい朝子との関係、新しい家族の形を描き、2001年の第54回カンヌ国際映画祭監督週間に正式出品され世界的に高い評価を獲得。昨今、リバイバル上映が話題を呼ぶ橋口亮輔監督作品のなかでも極めつけの傑作だ。主演の田辺誠一と監督の橋口が共にステージに立つのは『ゼンタイ』(橋口亮輔監督/2013年)公開時のトークイベントぶり。さらに『ハッシュ!』公開当時の映画館の興行スタイルは、昨今とは大きく違い舞台挨拶やイベント興行などはやっていなかったということもあり、なんと約25年振りに『ハッシュ!』を、そして当時のカンヌを語る大変貴重な機会となった。翌4日より開催される本特集の関連企画である「自由なる映画たち ~7本の映画でたどる『カンヌ監督週間』~」(東京日仏学院にて開催)へと繋げ、さらに本年度の「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」を盛り上げる良質なイベントをレポートいたします。

★ 「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」開催記念プレイベント 映画『ハッシュ!』スペシャルトーク ★
実施日時:12月3日(水) 18 :30 ※上映後のトークイベント
実施場所:東京日仏学院 エスパス・イマージュ (東京都新宿区市谷船河原町15)
登壇者:田辺誠一、橋口亮輔(監督)
『ハッシュ!』を観終えたばかりの観客の割れんばかりの拍手に迎えられた田辺誠一と橋口亮輔監督。司会のよしひろまさみちに「二人がお会いするのは久しぶりなのでは?」と向けられると、田辺は「もう12~13年ぶりじゃないですかね?」と回想。 「あの頃、田辺くんが自主映画をやっていると聞いていて、自分で機材も買ってクレーンまで持ってたんでしょ? 『ゼンタイ』(2013年)が2~3日で撮った自主映画みたいなものだったので、そんな話しをできたらと思って」と監督作『ゼンタイ』のトークイベント参加ぶりの再会だと、橋口は明かした。
『ハッシュ!』で参加した第54回カンヌ国際映画祭の監督週間。2001年当時のカンヌでの出来事について聞かれると、「田辺くんはあの頃も既に忙しかったから、わたしたちの後の便で深夜0時くらいにホテルに到着したんだったか。ホテルの前でシャンパンを持って出迎えましたよ」と、満面の笑みで回想する橋口監督。「そうですね、カンヌの時期はどこもホテルがいっぱいだから、端のほうの今でいう民泊のようなところで、みんなで泊まりましたね」と田辺も懐かしんだ。
監督週間に正式出品された経緯について橋口は、「 『渚のシンドバッド』がロッテルダム国際映画祭でグランプリをいただいて、パリのシネマテークでも上映し てもらいまして。そこのディレクターをやっていた女性がわたしの作品を憶えてくれていて、出世してカンヌで橋口作品を是非と言ってくれました」と語り、「なんの裏工作も賄賂も無いんですよ」と笑ってみせた。さらに、カンヌでの上映について「自分としてはそういうつもりで描いていないんですけど、劇中の登場人物たちに白黒をつけるというか、敵か味方かというような見方をされていたようで、上映中は笑いが起きたり拍手が起きたり。エンドロールでボビー・マクファーリンの曲が流れると、お客さんがみんな歌いながら手拍子して、 そこで自分たちにスポットライトがあたってね…不思議な体験でした」と、新鮮な経験だったことを語った。田辺は「とにかく慌ただしかったので、せめて自分へのご褒美にと思いルイ・ヴィトンに行ったくらいですかね」と、人柄が表れた控えめな回答だ。

当時のキャスティングについて、実は一回目は田辺に断られたこともあると明かした橋口監督。「当時、『二十歳の微熱』を撮るにあたってキャスティングを考えていた頃、ちょうど田辺くんがMEN’S NON-NOでデビューしたばかり。イメージにピッタリだと思ってオファーしたことがあって、その時は一度断られてしまったんです。映画デビュー作の『冬の河童』やドラマ作品などで役柄が固定化 されることを危惧して、より幅広く演じていきたい思いだったと、田辺は語る。「その後、『渚のシンドバッド』の試写会でお会いして、『ハッシュ!』の際に改めてお声掛けいただき、是非ということで」主演に抜擢された経緯を語った。
撮影時、田辺は蜷川幸雄の舞台との同時進行だったようで「舞台の本番が終わってから名古屋から車で来て撮影をしたり、とにかく忙しかったです」と、当時のハードスケジュールを思い起こす。橋口は撮影当時を思い出し「『ハッシュ!』の時は日活スタジオで24日間リハーサルしました。こんなにやる必要あるのかってくらい。その時の田辺くんの演技を見て“本人自身が面白いんだから、ゲイ役をやるとか、そんなことは一切考えないで田辺くんはそのままで演ったほうがいい”と言ったんです。そうしたら田辺くんは“僕は演技をする時に自分を使ったことはありません”と言って。覚えてる?だから“騙されたと思ってやってみて”と諭して…。撮影後にどうだったか聞いたら“自分を使って演技をするのがこんなに楽しいことだと思いませんでした”だって」と、若き日の田辺誠一の一歩を目撃したようだ。
よしひろまさみちは「田辺さんは『ハッシュ!』の前と後で演技の感じがだいぶ違いますね」と頷く。それについて尋ねられた田辺は「たぶんそうですね、そこから自分を出すようになったのかもしれません」と、あらためて今作が自らの重要なターニングポイントとなったことを感慨深げに顧みた。同時進行だった舞台ではギリシャ人の役でロングヘアだったが、『ハッシュ!』の撮影にあたって髪を切りたいと申し出たことも。「勝裕が直也に初めて会うシーン、あれは実はトニー・レオンを意識してたんですよ」と驚きの告白。橋口監督も「それは今まで知らなかった。撮影中に知ってたらドン引きだったかもね」と笑いを誘う。

橋口亮輔の監督作品の登場人物たちの職業設定について聞かれると、「ハッシュ!の場合、土木研究所で働く勝裕は、(フランソワ・)トリフォー監督の『隣の女』をイメージしていました。あの映画の中でジェラール・ドパルデューが(たぶん公的な仕事なんでしょうけど)池の検査で、船の上でぷかぷか浮いているんです。お堅い仕事をしているはずなんだけど、どう見ても遊んでるようにしか見えない。それが優 柔不断な男のキャラクターに合致していて。そんなイメージで、『ハッシュ!』ではゲイである勝裕が自分の人生をちゃんとしようと硬い仕事に就いて生きているけど「このままでいいのかな?」と思っている」「皆さん、何らかの仕事をして、自分を成り立たせているじゃないですか。現実に生きているわけですから。やっぱりその仕事を選ぶっていうのも、ちゃんとその人のパーソナリティが反映されているものだろう、ということがあって」と、キャラクター造形と職業が不可分であることを語った。
昨年のカンヌ監督週間でも日本からは『ナミビアの砂漠』(山中瑶子監督/2024年)、今年は『見はらし世代』(団塚唯我監督/2025年)と新世代監督の活躍が目覚ましい。若手の方々の新作をご覧になるか問われた橋口は「本数が多すぎてほとんど観れていないです」と率直な回答。注目の若手監督について「去年公開になった『ぼくのお日さま』(奥山大史監督/2024年)の奥山くん、彼は注目株ですね。期待の星なので是非とも頑張ってほしいです」と、エールを贈った。

しかしながら監督の新作も観たいものです、と司会のよしひろに振られると「ハッシュの続編があれば」と田辺からの驚きの提案が。「57歳になった直也と勝裕が子育てをしていて、というのはあまりリアリティが無さそうでどうなんだろう」と懐疑的な監督。「育った子供と会うというプロットなら…」と重ねる田辺。直也と勝裕の描かれていない25年間を想像する企画会議が始まるかと思いきや、「実は『ハッシュ!』は浜崎あゆみのために考えていた企画なんですよ。93年の段階で考えていたのは、直也と勝裕の間に生まれた子供が成長したのが浜崎あゆみで、その子を中心にという物語を考えていたんです。でも『二十歳の微熱』の後に歌手になったから実現せずで、大人の男性のほうを中心とした物語になった」と驚きの新事実を明かした。「公開してから約25年も経つのに、今もお客さんの心のなかにこの作品世界が生きていて、観ていただけて、本当に嬉しいです」と、主演俳優・田辺誠一の感激の言葉でイベントは終了した。
「カンヌ監督週間 in Tokio 2025」は12月12日(金)から12月25日(木)まで、ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催。関連企画「自由なる映画たち ~7本の映画でたどる『カンヌ監督週間』~」 は12月4日(木)~12月7日(日)まで東京日仏学院 エスパス・イマージュにて開催。



